【マーケニュース】iPadのCM炎上の理由をマーケティング目線で分析・改善|欧米・日本の価値観
先日、公開されたiPadのCM。
プレス機を使って既存のクリエイティブを破壊していく様子を表したCMが日本で大きな波紋を呼んでいる。
大方、自身が使っているものを否定されたみたいな意見が多いが、実際、炎上するほどのものか?というのが私の所感だ。
まあ、批判的な意見を述べるのは大体ひまな人なので、正直気にする必要はないと思う。
私の意見は正直どうでもいいのだが、重要なのは「なぜ、日本人に多くの批判的な意見がでたのか?」という部分だ。
話題となったiPadのCMと概要
まずは、このテーマについて知らない人のために簡単に元になった動画と概要について簡単におさらいしておく。
以下が本会の騒動となったCMだ。
簡単にいえば、これまでのクリエイティブやそれに使われてきた機材などをプレス機で圧縮し、出来上がったものがiPadだ。と主張するような内容となっている。
まず、1つの誤解を解いておこうと思うが、この動画を制作するにあたって恐らくだが、実際にプレスしているかどうかは怪しいという点だ。
その理由として、物理的に明らかにおかしい挙動があり、普通に考えればここまできれいにモノが動かすのは難しいのでCGで作られている可能性が高い。
ここで怒っているいる人はほとんどいないと思うが、一応述べておこうと思う。
この前提のもと、挙がっている意見をまとめるとこうだ。
- 他者のクリエイティブを尊重していない
- 自社製品ファースト過ぎて配慮ができていない
- 見ていて気持ちのよいものではない
というのが代表的な意見だ。
これに対してAppleは正式に謝罪の意を表明し、CMでの使用は控える方針を示している。簡単にいえば「マーケティング施策」としての失敗を認めたわけだ。
詳しい批判の内容については以下のpostを見ると良いだろう。
iPadのCMの失敗要因
今回のような事象はマーケティング施策を打っていけば必然と起こる可能性があるもので、別段それについて言及する必要はあまりないと思っている。
シンプルに「自社製品を良く演出しようとして失敗した」というのが大元にあるのは想像に難しくない。
今回の場合は企業ブランドとメディアからの注目度ばかりに目がいってしまったのではないだろうか?というのが根本的な理由だろう。
そして、今回の炎上は主に企業ブランドの「自社製品をどのように表現したいのか」に大きなウエイトを置きすぎてしまったのが1つ目の失敗の要因と考えられる。
2つ目の失敗要因として「日本市場のニーズ把握」ができていなかったというのも挙げられる。実際に今回の炎上意見は日本から多く出ているという話だ。
結果、炎上によってメディアのニーズは引けたが、打ち手としては失敗したといわざると得ない状況となってしまったわけだ。
日本の価値観と欧米の価値観の相違
さて、では今回の1番の炎上要因となった「日本」と「欧米」の価値観の違いだ。
今回のCMに対して否定的な要素が多かったのが日本だが、その背景はまさしく「モノを大切にする文化」という部分に引っかかったに過ぎない。
実は、これは度々海外と日本のマーケティングの違いで起こることであると言える。
こんな話を聞いたことはないだろうか?
「日本はなかなか欧米・欧州のビジネスで海外展開ができない」という話だ。
これは大きく島国である日本が、海外の文化を知らないということから発生する事案である。
今回はその逆にあたり、欧米が日本を理解できていなかったということだ。
日本文化の移り変わりと海外情勢
日本は元々、「八百万の神がいて、あらゆるモノに神が宿るという自然的視点の文化」が根本にはある。そのため、日本では「もったいない」といった言葉を代表にモノを大切にする文化が根づいている。
しかも、本来島国であった日本は文化的お手本を見つけることをしてこなかった。
欧米や欧州の文化を手本とし始めたのも歴史の中では、100年程度の新しい時代になってからで、完全に染まりきっているわけではない。
さらに、戦後の日本とアメリカの関係は明らかな「主従関係」にあり、最初は評価してきたが、情報社会によって近年ではそこに不満に持つ人も少なくないといった現状だ。
アメリカの世界の警察時代も終焉に近づき、日本人は「イエスマン」ではなくなってきているという状況も今回の大きな要因として考えられる。
裏を返せば、30年前であれば今回のCMでも歓迎していた可能性は少なくない。
この近年の社会情勢の変化や日本人文化との違いを捉えられなかったことが最大の要因といっても過言ではないのだ。
言語から見る自己視点の日本と他者視点の欧米
そもそもの話にはなるが、日本と欧米では言語からも視点の違いをみることができる。
日本語は簡単にいえば、母音が優勢の言語であり、これは元を正せば「象形文字」が起因となっている。一方、海外は子音が優勢の言語であり、これは象形文字から進化した「表意・表音文字」の言語だ。
象形文字というのは、自然界にあるものを絵として示したものからはじまっているため、日本語は自然に近い言語である。分かりやすく言えば「木」なんかはそのまま形を表している。
表意文字というのは、何かしらの意味を持たせた「音」に対して組み合わせで別の意味を表す文字のことを指している。具体的にはyourslfeなんかは「You(あなた)+「self(自身で)」の組み合わせで構成される。
※言語については研究段階であり諸説ある。
形象文字は自分から見た自然を文字にしており、表意・表音文字は他人から見た機能を文字にしている。
つまり、日本語は自然を大切にしているという側面のほかに「観測地点が自分視点である」というのが言語から得られる情報だ。
一方、欧米は利便性を重視して機能としての言語であり、「観測地点は第三者視点の機能である」というのが言語から得られる情報となる。
簡単に欧米言語と日本語の違いを以下の表にまとめた。
分類 | 日本語 | 欧米言語 |
---|---|---|
文字体系の起源 | 象形文字(漢字) | 表音文字(アルファベット) |
文字体系の種類 | 表意文字(漢字)と表音文字(ひらがな、カタカナ)の組み合わせ | 表音文字(アルファベット) |
言語の特性 | 母音が優勢 | 子音が優勢 |
自然との関係 | 自然界の事物を絵画的に表現する傾向が強い | 自然との関係は間接的 |
自己と他者の視点 | 自己の内面や感覚を重視 | 他者の視点を重視 |
思考様式 | 直感的、情緒的な表現に適している | 合理的、客観的な表現に適している |
語彙の形成 | 漢字の組み合わせによる新しい語彙の形成が主流 | 語の組み合わせによる新しい意味の創出が容易 |
コミュニケーション様式 | 暗黙の了解や非言語的コミュニケーションを重視 | 明示的で言語的なコミュニケーションを重視 |
文化的特徴 | 自然との調和、集団主義 | 個人主義、創造性、革新性 |
言語は日常生活に使われるもので、自然と刷り込みが行われているため、「日本人は主観的」「欧米人は客観的」というのが物事の判断基準になりやすい。
今回のCMも欧米のように「客観的な視点」で捉えた場合と、日本のように「主観的な視点」で捉えた場合では印象が大きく変わるはずだ。
日本人は意外にも「客観性」より「主観性」の方が強い民族である。
ストーリーテリングで改善できる今回のCM
この価値観の相違を埋めるために今回のCMはどのように改善すればいいのだろうか?
その方法の1つとして「ストーリーテリング」が挙げられる。
ストーリーテリングというのは、簡単に言えば、人間の物語バイアスを利用して納得感を生み出す手法のことだ。人間はストーリーがついているものの方が理解しやすいという脳の機能(偏り)を利用している。
例えば、今回のCMに以下のようなテロップが挿入されていたらどうだろうか?
我々はこれまで素晴らしいクリエイティブを想像してきた。
しかし、時代というプレス機によってどんどんと圧縮されている。
ゲーム機、音楽、アート。
物質的なものは終わり告げ、様々なものがデジタルへ移行していっている。
これらは時に破壊されていったと感じるかもしれない。
だが、これらが生み出した素晴らしい作品たちはデータとして圧縮されて今もなお残り続けている。
そう。
iPadで新たなデジタルクリエイティブを生み出そう。
上記のテロップを思い浮かべながらもう一度、CMを見てもらいたい。
あくまで音楽に当てて作っているわけではないので、実際どうなるかは分からないが、このぐらいのテロップを入れるだけでの大きく印象は変わるはず。たぶん。
まあ、シンプルに動画自体はもう少し柔らかい表現にした方が良いが、これだけでも多少の改善が図れるという点での提案だ。
ぜひ、あなたもこの動画はどのように変更したら良いのかを考えてみるとよいのではないだろうか?