【心理学コラム】認知バイアスとは?マーケティングで理解すべき心理学を解説
マーケティングでは基本的に人にどう認知させるかというのは非常に重要な要素なる。
会議で決められる施策の中には、「なんとなく」こっちが良さそうという意思決定をしている企業は少なくないのではないだろうか?
その結果、施策自体が大きく失敗して、1人を責め立てるようなことが起こっているのが、悲しいことに現実だ。
これを解決するためには、ある程度の理論に基づく意思決定が必要となる。
そこで有効なのが「認知バイアス」という心理学だ
認知バイアスとは?
認知バイアスと一言で言っても多くの種類が存在する。まずは、認知バイアスはそもそも何なのかについて掘り下げていこう。
認知バイアスの基本概念
認知バイアスとは、人間の思考や判断に影響を与える、無意識の偏りや歪みのことだ。
我々は、客観的な情報に基づいて合理的に判断しているつもりでも、実際には様々な認知バイアスの影響を受けている。
認知バイアスは、経験、知識、感情、社会的な影響などによって形成され、時には誤った判断や行動に繋がることもある。
マーケティングの分野では、この認知バイアスを理解することが非常に重要だ。
消費者の行動や意思決定に大きな影響を与えるため、効果的なマーケティング戦略を立てる上で欠かせない知識となる。
認知バイアスの発生原因
認知バイアスは、人間の脳が複雑な情報を効率的に処理するために、様々な戦略を用いることから発生するのだ。
例えば、過去の経験や記憶に基づいて判断する「ヒューリスティック」と呼ばれる戦略は、迅速な判断を可能にする一方で、誤った判断を引き起こす可能性もある。
また、人間の脳は、自分が信じたいことや期待していることを確認しようとする傾向があり、「確証バイアス」と呼ばれる認知バイアスを生み出している。
わかりやすく言えば、人間の脳が「緊急への対応」をするためであったり、「怠けたい」という怠惰一面であったりが認知バイアスの発生を促している。
人間が自然の中で生きるために獲得した、生存率を上げるためやエネルギーの保存のために、脳が効率化しようとして起こるということだ。
認知バイアスはある意味でいえば、人間らしさであり、AIのハルシネーションに対して偉そうにいう立場にはない。
認知バイアスの歴史
認知バイアスがどういうものか歴史をちょっと見てみよう。
認知バイアスに関する研究の始まり
認知バイアスに関する研究は、20世紀半ばに心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによて本格的に始まった。
人間の判断が常に合理的ではなく、様々なバイアスの影響を受けることを示す実験を行ったことによって広がった。
この研究は、認知心理学に大きな影響を与え、認知バイアスに関する研究が活発化したのだ。
マーケティングの分野でも、消費者行動研究の一環として、認知バイアスの影響が注目されている。
特に、経済学、経営学、マーケティング、医療、法律などでは、認知バイアスが人間の行動や意思決定に影響を与えることが認識されているのだ。
そもそも人間は合理的ではないというのは、行動経済学にも通ずるところがあるね。
認知バイアスの例
ある調査では、参加者に100人のグループにおける弁護士とエンジニアの割合が、弁護士が30人、エンジニアが70人であると伝えた。
その後、参加者に「このグループからランダムに選ばれた人物が、保守的な服装をし、穏やかな性格で、趣味はチェスを遊ぶことである。この人物は弁護士かエンジニアか?」という質問をしたのだ。
この質問に対して、多くの参加者は「弁護士」と答えたそうだ。
これは、参加者が弁護士のイメージとして、保守的な服装、穏やかな性格、チェス好きといった特徴を結びつけ、そのイメージに基づいて判断したためと考えられているのだ。
しかし、実際には、エンジニアの方が弁護士よりも多いので、エンジニアである可能性の方が高いはずなのだ。
このように、認知バイアスは、私たちの判断を歪めてしまうことがあるのだ。
データドリブンなどが流行っているが、実際はデータを見る人のバイアスが大きな影響を与えていることは認識しておこう。
代表的な認知バイアス一覧
認知バイアスといってもたくさんの種類が存在するため、代表的な認知バイアスを一覧化した。ぜひ、覚えて帰ってもらいたい。
バイアス名 | 説明 |
正常性バイアス | 自分が経験したことや知っていることだけが正しいと信じ込み、それ以外の可能性を無視してしまう傾向。 |
確証バイアス | 自分の信念や仮説を支持する情報ばかりに注目し、反証となる情報は無視してしまう傾向。 |
生存バイアス | 成功事例や生き残った事例ばかりに注目し、失敗事例や消滅した事例を無視してしまう傾向。 |
後知恵バイアス | 過去の出来事を予測できたかのように思い込んでしまう傾向。 |
ストーリーバイアス | 出来事を説明する際に、因果関係やストーリー性を重視し、実際には関係のない出来事を結びつけてしまう傾向。 |
ハロー効果 | ある人物の良い印象から、その人物の他の特徴も良く評価してしまう傾向。 |
アンカリング効果 | 最初に提示された情報に過度に影響され、その情報に引きずられて判断してしまう傾向。 |
バンドワゴン効果 | 多くの人が支持しているものを自分も支持したくなる傾向。 |
代表性ヒューリスティック | ある事柄が、自分のイメージや経験に合致するかどうかで判断してしまう傾向。 |
利用可能性ヒューリスティック | 記憶や経験の中で、すぐに思い出すことができる情報ほど、重要だと判断してしまう傾向。 |
偏見盲点 | 自分の偏見に気づかず、客観的な判断ができない状態。 |
正常性バイアス
正常性バイアスとは、自分が経験したことや知っていることだけが正しいと信じ込み、それ以外の可能性を無視してしまう傾向のことだ。
例えば、自分が住んでいる地域は安全だと信じているため、実際に危険な状況が発生しても、それを認めようとしないことがある。
地方に住む年配の方が、東京は人をだまそうとする怖いところだと言って子育てをしていたケースなんかも実際にある。
マーケティングにおいては、消費者の既存の信念や習慣を理解し、それに合わせた商品やサービスの提供が重要だ。
実際に、これを間違えると炎上の原因になったりする。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分の信念や仮説を支持する情報ばかりに注目し、反証となる情報は無視してしまう傾向のことだ。
例えば、特定の政治家が好きだとすると、その政治家の政策を支持する情報ばかりに注目し、批判的な情報は無視してしまうことがある。
マーケターは、このバイアスを利用して、消費者の既存の信念を強化するような情報を提供することで、商品やサービスへの支持を高めることができる。
実際に、2024年に実施された東京都知事選の様子からも確証バイアスが大きく働いていることが分かる。
生存バイアス
生存バイアスとは、成功事例や生き残った事例ばかりに注目し、失敗事例や消滅した事例を無視してしまう傾向のことだ。
例えば、起業家の成功談ばかりがメディアで取り上げられるため、起業は誰でも成功できるという誤った認識を持つことがある。
マーケティングでは、成功事例を強調することで商品やサービスの魅力を高めることができるが、同時に現実的な期待値を設定することも重要だ。
施策の中には、他の業界で上手くいったからと言って取り入れて失敗するケースは少なくない。ケースバイケースというのは前提として持っておくべきだ。
似たバイアスとして生存者バイアスというのがあるが、これは自分の立場や生命を守ろうとするバイアスのことを指す。
後知恵バイアス
後知恵バイアスとは、過去の出来事を予測できたかのように思い込んでしまう傾向のことだ。
例えば、スポーツの試合の結果を知った後に、「最初からこの結果が分かっていた」と感じることは、後知恵バイアスの一例だ。
マーケティングにおいては、消費者の購買後の満足度や評価に影響を与える可能性があるため、注意が必要だ。
実態を捉えるというのは、何においても重要なのを忘れてはならない。
自分が正しかったと思い込みたい人間の心理と強く結びついている。記録などをしておくと間違いに気付けるぞ。
ストーリーバイアス
ストーリーバイアスとは、出来事を説明する際に、因果関係やストーリー性を重視し、実際には関係のない出来事を結びつけてしまう傾向のことだ。
例えば、ある事件が起こった際に、たまたまその事件の前に起こった出来事を原因だと考えてしまうことがある。
マーケティングでは、ブランドストーリーの構築やコンテンツマーケティングにおいて、このバイアスを活用することができる。
あまり、理解していない経営者も多いが、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を設定するのもストーリーバイアスを利用して会社に親近感を持って貰うためのブランディング戦略の一環である。
なかでも「理由」はかなり大きな影響を与えることが多いため、意識して使うようにしよう。
ハロー効果
ハロー効果とは、ある人物の良い印象から、その人物の他の特徴も良く評価してしまう傾向のことだ。
例えば、容姿の良い人が、能力も高いと評価されてしまうことがある。タレントを使ったりするのはまさにハロー効果を狙っている。
マーケティングでは、商品やサービスの一部の良い特徴を強調することで、全体的な評価を高める効果が期待できる。
注意点としてハロー効果はマイナス効果に働くこともある。タレントの不祥事で商品イメージが悪くなるなどはその典型例だ。
身長が高い人が年収が高くなるデータがあるが、これは完全にハロー効果によるもので、能力を示したものではない。
アンカリング効果
アンカリング効果とは、最初に提示された情報に過度に影響され、その情報に引きずられて判断してしまう傾向のことだ。
例えば、商品の値段交渉をする際に、最初に提示された価格に影響されて、妥当な価格よりも高い価格で交渉してしまうことがある。
よくスーパーなどのPOPで表示価格に線が引かれて、割合価格が書かれているが、これはアンカリング効果を応用したものだ。
価格設定や交渉において、このバイアスを活用することで、消費者の価格感覚に影響を与えることができる。
しかし、小手先のテクニックで使用して、実態と異なることをすると、「景品表示法」に引っかかるため、悪用はおすすめしない。
法律でNGなことはするもんじゃないが、アンカリング効果は色んな場面で有効だ。
バンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは、多くの人が支持しているものを自分も支持したくなる傾向のことだ。
例えば、流行している商品やサービスを、自分も使ってみたくなることがあるのではないだろうか?
最近では、脱毛なんかが流行っているが、あれはインフルエンサーが「みんなやっている」と強調することでで効果を発揮している。
マーケティングでは、「人気商品」や「ベストセラー」といったフレーズを使うことで、消費者の購買意欲を刺激することができるのだ。
アンカリング効果は使われ過ぎて、胡散臭く感じる人も昨今では増えてきたんじゃないだろうか?
代表性ヒューリスティック
代表性ヒューリスティックとは、ある事柄が、自分のイメージや経験に合致するかどうかで判断してしまう傾向のことだ。
例えば、ある人が弁護士っぽい服装をしている場合、その人が実際に弁護士であると判断してしまうことがある。
泥棒が警備員のような服装をしていたら、周囲からはあまり疑われないみたいなものだ。
商品やサービスのデザインや広告表現において、このバイアスを考慮することで、消費者の印象形成に影響を与えることができるのだ。
記事のテキストリンクを青以外のカラーしない方が良い理由もここにある。知らないと損をするぞ。
利用可能性ヒューリスティック
利用可能性ヒューリスティックとは、記憶や経験の中で、すぐに思い出すことができる情報ほど、重要だと判断してしまう傾向のことだ。
例えば、最近ニュースで見た事件が、実際に起こる確率よりも高く感じられることがあるのではないだろうか?
飛行機事故が起こると、飛行機に乗るのが怖いと思ったりするのがまさしく、この状態に陥っている。
マーケティングでは、印象的な広告やキャンペーンを展開することで、消費者の記憶に残りやすくし、購買行動に影響を与えることができる。
偏見盲点
偏見盲点とは、自分の偏見に気づかず、客観的な判断ができない状態のことだ。
例えば、自分が所属するグループに対しては、良い面ばかりに注目し、悪い面は無視してしまうことがある。
先日、まさしくこの状態に陥っている状況を目の当たりにしたが、「ペルソナ像を作るのに特定の情報を得て、典型例のようにしてしまった」なんてことがある。
「母数で考えるとこれが典型例になる可能性は極めて低いだろ」と指摘することで難を逃れたが、以外にも思い込みの力は強く、自分が身近に見た人が代表例のように解釈するケースは少なくない。
マーケターは、自身の偏見や先入観に気づき、客観的な視点を保つことが重要だ。
SNS上で自分が世界一不幸な人間だみたいにしているのもまさしくこのバイアスが働いているぞ。
認知バイアスを軽減する方法
マーケティング施策を打つうえで、認知バイアスは自分にもかかることを理解しなくてはならない。
よく、実像とずれた施策を打ちがちなんていわれるマーケターが多いのも認知バイアスによる歪みである。ぜひ、対策をしてちゃんとマーケティングをして欲しい。
構造的な理解を深める
認知バイアスを軽減するためには、「認知バイアスとは何か」「どのような種類があるのか」「どうして起こってしまうのか」「必ず発生してしまう」ということを理解することが重要だ。
このように、認知バイアスのメカニズムを理解することで、自分の思考や判断に影響を与えている可能性のあるバイアスに気づくことができる。
分かりやすい例でいえば、アンケート調査だ。
アンケート調査というのは必ず、認知バイアスが発生する。金銭がもらえるから良いことを書いておこうであったり、自分に合わなかったから悪く書いてやろうなんてことは日常茶飯事に起こる。
そもそもアンケートという形式自体にバイアスがかかっているということも。
人が意思決定や行動をする際には、何かしらの偏見を持っているという前提が必要なのだ。
そのためマーケティングにおいては、自社の戦略や施策が特定の認知バイアスに依存していないか、定期的に見直すことが重要だ。
多角的な情報収集
認知バイアスは、偏った情報や自分の信念を支持する情報ばかりに注目することで発生するのだ。
そのため、様々な視点からの情報収集を心がけることが重要だ。
本などは典型的で、同じ人のものを読んでいてもあまり意味はない。
同じテーマについて、色々な人の意見を取り入れてコア部分を見つけ出すことが最も重要だ。
異なる立場や意見を持つ人からの情報や、客観的なデータに基づいた情報などを収集することで、よりバランスのとれた判断をすることができる。
マーケティング戦略を立てる際には、多様な消費者層からの意見や市場データを収集し、偏りのない判断を心がけることが重要だ。
第三者の意見による確認
自分の判断に自信を持てない場合や、重要な意思決定を行う際には、第三者の意見を聞くことが有効だ。
第三者は、自分の思考や判断に影響を与えている可能性のあるバイアスに気づくことができる。また、第三者の意見を聞くことで、自分の考えを客観的に見直す機会を得ることが可能だ。
実際に世代間ギャップなども存在するため、その年代の人を何人も捕まえて、レビューしてもらうことも多い。
自分がその価値観を理解できない時は、あえて自分が手を出すのではなく、任せることも重要だ。
このように、マーケティング施策を実施する前に、社内外の専門家や消費者パネルなど様々な意見を聞くことで、より効果的な戦略を立てることができるのだ。
最後に対策例についてまとめておいたので、チェックしておくと良いだろう。
- 自己認識を高める:自分がどのような認知バイアスを持っているか、自覚することが重要
- 多様な視点を取り入れる:異なる背景や経験を持つ人々の意見を積極的に聞くことで、自分の偏りに気づくことができる
- データに基づいた意思決定:感情や直感だけでなく、客観的なデータを重視することで、より合理的な判断ができる
- 批判的思考を養う:情報を鵜呑みにせず、常に疑問を持ち、検証する習慣をつけることが大切
- ゆっくり考える時間を作る:急いで判断を下すのではなく、十分な時間をかけて考えることで、バイアスの影響を減らすことができる
「自分の認識はずれているかもしれない」というのは認知バイアスに気付くために持っておかなくてはならない感性だ。
認知バイアスを利用したマーケティング手法
ここまでもいくつか紹介はしてきたが、実際にマーケティングで使われている手法について言及していく。
価格戦略におけるアンカリング効果の活用
価格戦略において、アンカリング効果は非常に有効な手段だ。
例えば、高級ブランドは、高価格帯の商品を最初に提示することで、消費者に高い価格帯のイメージを植え付け、その後、最も売りたい商品誘導するのだ。
商品販売の際に複数の価格帯が用意されていることがあるが、まさしくアンカリング効果を発揮するためのものである。
お弁当がよく例に挙げられるが、松・竹・梅と内容と価格を見せることで、ユーザーに選ばせる手法は有名だ。
この時、販売側が売りたいのは中間の竹であることが多く、人間の見栄部分を読んで価格設定をしていたりする。
また、セール時に元の価格を表示することで、割引後の価格がより魅力的に感じられるようにすることもできる。
ECなどに関わっている人はぜひとも覚えておきたい認知心理学の基本だ。
物語を通じたブランドストーリーテリング
ブランドストーリーテリングは、消費者に共感や感動を与えることで、ブランドへの愛着を高める効果があるのだ。
ストーリーバイアスを利用することで、消費者は、ブランドの物語に感情移入し、そのブランドの商品やサービスを支持するようになる。
例えば、創業者の苦労話や商品開発の裏話などを効果的に伝えることで、ブランドの価値を高めることができるのだ。
他にも、食品販売などで農家さんの顔を見せてプロフィールを載せたQRコードを載せて、農家になった背景について書いていたりするのもストーリーバイアスを利用した、信頼関係の構築方法だ。
認知バイアスを理解することは人間の知るという行動を理解するのに非常に近い。
マーケティングにおける認知バイアス活用と注意点
マーケターは、認知バイアスを理解し、それを適切に活用することで、効果的なマーケティング戦略を立てることができる。
しかし、同時に、消費者を騙すような不適切な利用は避けるべきだ。
例えば、希少性バイアスを利用して「限定商品」をアピールすることは効果的だが、実際には大量生産している商品を限定と偽るのは倫理的に問題があるのだ。
マーケティングに関係する法律では「景品表示法」「薬事法」「薬機法」「著作権」などがある。
いくら認知バイアスを利用した施策が有効だとしても、これらに引っかかるようなことは長期的にみてすべきではない。最終的に信用の部分で自分達に返ってくる。
また、マーケター自身も認知バイアスの影響を受けやすいことを認識し、客観的な視点を保つ努力が必要だ。
市場調査や消費者分析を行う際には、自分の先入観や期待に囚われず、データに基づいた判断を心がけるべきだろう。