【心理学コラム】マズローの欲求5段階説までニーズを落とし込め!マーケで使える心理学
マーケティングと心理学は非常に相性の良い学問だ。
中でもマズローの欲求5段階説はニーズの根源的な的を得ていることが多いため、かなり重宝している。
ニーズを最終的にマズローの欲求5段階説まで落とし込むようにかみ砕いていくと、ニーズの分析を行いやすい。
今回はそんなマズローの欲求5段階説について解説する。
マズローの欲求5段階説とは
マズローの欲求5段階説は、人間の欲求を階層構造で説明する理論だ。
この理論は、人間の行動が基本的な生理的欲求から自己実現欲求まで、段階的に満たされるべき欲求によって動機付けられると主張している。
マズローの生涯と欲求5段階説の発展
アブラハム・マズローは20世紀を代表するアメリカの心理学者だ。彼は1908年にニューヨークで生まれ、1970年にカリフォルニアで亡くなった。
マズローは人間性心理学の創始者の一人として知られており、その理論は心理学のみならず、経営学やマーケティングなど幅広い分野に影響を与えている。
マズローの欲求5段階説は、1943年に発表された彼の論文『人間の動機づけ』の中で初めて提唱された。
この理論は、人間の欲求を階層構造で捉え、下位の欲求が満たされると、より上位の欲求が顕在化するという考え方を示している。
それまでの心理学が主に病理的な側面に焦点を当てていたのに対し、健康な人間の動機づけに注目したことだ。人間には自己実現への本質的な傾向があると考え、最上位の欲求として位置づけた。
欲求の階層構造
マズローの欲求5段階説では、人間の欲求は下位から上位へと5つの階層構造で構成されている。
各階層の欲求は、下位の欲求が満たされた後に初めて顕在化するという考え方が本流であるが現在は否定されている。
結局のところ、厳密な順序を意味するものではなく、ある程度の柔軟性があることが分かっている。
わかりやすく言えば、これまで特に困ったことが起こらなかった家庭から大学に入学して1人暮らしをしたとしよう。
このとき、家庭という名の社会に属ししていたが、急になくなったことで、誰かと繋がりたいという余裕に目覚めたりするのだ。
今回の例の場合は、親に褒められたいという欲求が出やすい承認欲求から社会的欲求に格下げされたケースだ。
このように、環境や所属するコミュニティによって、フェーズの上下変動が起こり、欲求の性質が変わってくる。スペクトラムのような関係性であるというのが分かる。
マズローの欲求5段階を個別に解説
マズローの欲求5段階説の概要についてはなんとなくイメージがつかめたはずなので、今度はそれぞれの欲求について言及していく。
第1階層…生理的欲求
生理的欲求は最も基本的な欲求であり、生命維持に不可欠なものだ。
この欲求には、呼吸、食事、睡眠、排泄、性欲などが含まれる。これらの欲求は他の欲求よりも優先され、満たされなければ生存が脅かされる可能性がある。
例えば、極度の空腹状態にある人間は、食べ物を得ることに全精力を集中させる。この状態では、他の欲求は二の次になってしまう。
しかし、定期的に食事を取ることができる環境にある人間は、この欲求を常に意識することは少ない。
現在の日本において該当する人は極めて稀であると言われている。
第2階層…安全欲求
安全欲求は、身体的、精神的な安全を確保しようとする欲求だ。
この欲求には、住居、仕事、健康、安定などが含まれる。生理的欲求が満たされた後に顕在化し、安全な環境を求めるようになる。
例えば、災害や戦争などの危険な状況下では、安全欲求が強く表れる。
平和な社会に住む多くの人々にとって、この欲求は普段意識されることは少ないが、突然の事故や病気によって、この欲求の重要性を再認識することがある。
東日本大震災のような大規模な災害時には、このフェーズまで落ちてしまうとされている。
第3階層…社会的欲求
社会的欲求は、所属感、愛、友情、愛情などを求める欲求だ。
家族、友人、仲間とのつながり、社会的な承認などが含まれる。安全欲求が満たされた後に顕在化し、人間関係を築き、愛されることを求めるようになる。
人間は社会的な動物であり、他者とのつながりを求める本能がある。
孤独感や疎外感を感じると、この欲求が強く表れるだろう。SNSの普及は、この社会的欲求を満たすための新しい手段となっている。
親からの愛情などが大きく影響していると言われているのがこの欲求だ。
第4階層…承認欲求
承認欲求は、自己の価値や能力を認められたい、尊敬されたいという欲求だ。
地位、名誉、権威、成功などが含まれる。社会的欲求が満たされた後に顕在化し、社会から認められ、尊敬されることを求めるようになる。
この欲求は、自尊心や自己価値観と密接に関連している。
例えば、職場での昇進や賞の受賞は、この承認欲求を満たす一つの形だ。
また、SNS上でのいいね!やフォロワー数の増加も、現代社会における承認欲求の表れと言える。
厳密に言えば、承認欲求は「他者承認欲求」と「自己承認欲求」の2種類があり、自己承認欲求のほうがより高次な欲求だ。
承認欲求の種類 | 説明 |
他者承認欲求 | 他者からの認識や評価、尊敬を得ることを求める欲求。他者から認められることで、自己の価値を確認する。 |
自己承認欲求 | 自分自身で自分を認め、価値を感じることを求める欲求。自己評価の向上や、自信を持つことに関連する。 |
現代日本においては、社会的欲求と承認欲求の間にいる人が大半を占めているとされているぞ。
第5階層…自己実現欲求
自己実現欲求は、自分の能力を最大限に発揮し、潜在能力を現実化したいという欲求だ。
創造性、自己成長、自己啓発などが含まれる。他のすべての欲求が満たされた後に顕在化し、自己実現を目指すようになる。
マズローは、この自己実現欲求を人間の最高次の欲求として位置づけた。
しかし、すべての人がこの段階に到達するわけではない。自己実現を追求する人々は、自分の可能性を最大限に引き出し、人生の意味や目的を見出そうとする。
本当の意味で自己実現を目指そうとする人は、他人の評価をきにしないため、世界の約3%しか該当しないという。
マズローの欲求5段階の3つの分類
マズローの欲求5段階説は、さまざまな観点から3つの段階に分類することができる。
物質的欲求と精神的欲求
マズローの欲求5段階説では、欲求を「物質的欲求」と「精神的欲求」に分類することができる。
生理的欲求と安全欲求は、物質的な欲求であり、食料、住居、安全などの具体的なニーズを満たすものだ。
一方、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求は、精神的な欲求であり、人間関係、自己肯定感、自己成長などの抽象的なニーズを満たすものだ。
この分類は、人間の欲求が物質的なものから精神的なものへと移行していく過程を示している。
経済的に豊かな社会では、物質的欲求が比較的容易に満たされるため、人々はより高次の精神的欲求を追求するようになってきたのが背景だ。
経済レベルと欲求は密接な関係にある。
内的欲求と外的欲求
マズローの欲求5段階説では、欲求を「内的欲求」と「外的欲求」に分類することもできる。
生理的欲求、安全欲求、社会的欲求は、外的欲求であり、外部からの刺激や環境によって満たされる欲求だ。
一方、承認欲求、自己実現欲求は、内的欲求であり、自分自身の内面から生まれる欲求だ。
この分類は、欲求の源泉が外部にあるか内部にあるかを示している。
外的欲求は比較的容易に観察や測定が可能だが、内的欲求は個人の主観に大きく依存するため、把握が難しい場合がある。
ニーズの違いはこの価値観によって左右されるのはまさにここの部分が影響している言える。
欠乏欲求と成長欲求
マズローの欲求5段階説では、欲求を「欠乏欲求」と「成長欲求」に分類することもできる。
生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求は、欠乏欲求であり、何かが不足している状態から生まれる欲求だ。
一方、自己実現欲求は、成長欲求であり、自己成長や自己実現を目指す欲求だ。
欠乏欲求は、満たされないと不快感や緊張を生み出すが、満たされると解消される。
一方、成長欲求は満たされても消えることはなく、むしろ強化される傾向がある。この違いは、人間の行動を理解する上で重要な視点を提供している。
知的好奇心などは成長欲求に近いぞ。マーケターの素質として非常に重要だ
マズローの欲求5段階説のマーケティング活用術
マズローの欲求5段階説は、マーケティングの分野でも広く活用されている。
顧客のニーズを理解し、それに応じた商品やサービスを提供するために、この理論は非常に有効だ。
マーケティングにおけるニーズ分析
マズローの欲求5段階説は、マーケティングにおいて、顧客のニーズを分析する上で非常に有効なツールとなる。
顧客がどのような欲求を満たそうとしているのかを理解することで、より効果的な商品やサービスを提供することができる。
例えば、高級ブランド品を購入する顧客は、単に物理的な所有欲を満たしているだけでなく、承認欲求を満たそうとしている。
わかりやすい例として、よく挙げられるのがスターバックスだ。コーヒーという商品に価値をおくのではなく、世界観に対して価値をおいている。
そのため、スターバックスにフランチャイズはなく、全て直営にして品質を保っている工夫があるのだ。
このような理解に基づいて、ブランドイメージや広告戦略を構築することで、より効果的なマーケティングが可能になる。
マズローの欲求5段階説によるニーズ拡張
マズローの欲求5段階説は、顧客のニーズを拡張する上でも有効だ。
例えば、顧客が安全欲求を満たそうとしている場合、セキュリティ対策の強化や保険商品の販売など、安全に関するニーズを満たす商品やサービスを提供することができる。
また、顧客が社会的欲求を満たそうとしている場合、コミュニティ形成やイベント開催など、人とのつながりを促進する商品やサービスを提供することが可能だ。
さらに、一つの商品やサービスで複数の欲求を同時に満たすことができれば、より付加価値の高い提案が可能になる。
例えば、高級スポーツジムは、健康(生理的欲求)、安全(安全欲求)、コミュニティ(社会的欲求)、ステータス(承認欲求)、自己成長(自己実現欲求)など、複数の欲求を同時に満たすことができる。
ブランドアイデンティティの構築にもマズローの欲求5段階説から分析できるものは非常に多い。
検索意図に対する回答で活用例
マズローの欲求5段階説は、検索エンジン最適化(SEO)やコンテンツマーケティングにも応用できる。
例えば、顧客が「ダイエット食品」を検索している場合、顧客は生理的欲求(健康)や承認欲求(理想の体型)を満たそうとしていると考えられる。
この場合、ダイエット食品の広告では、健康的な体作りや理想の体型への近道といったメッセージを訴求することで、顧客のニーズに応えることができる。
また、検索キーワードの背後にある欲求を理解することで、より効果的なコンテンツを作成することも可能だ。
例えば、「節約術」を検索している人は、安全欲求(経済的安定)を満たそうとしているかもしれない。
このような理解に基づいて、単なる節約のテクニックだけでなく、経済的な安定感や将来への安心感を提供するようなコンテンツを作成することで、より深いレベルで顧客のニーズに応えることができる。
コンテンツSEOはニーズに応えるだけでなく、新たな価値観や次の行動など読者が次を考えてあげることが重要だ。
マズローの欲求5段階説への批判とその対策
マズローの欲求5段階説は、人間の欲求を理解する上で非常に有効な理論だが、いくつかの限界や批判も指摘されている。
欲求5段階説の限界
マズローの欲求5段階説の主な限界の一つは、欲求の階層構造が常に厳密に当てはまるわけではないという点だ。
実際の人間の行動は、この理論が示すほど単純ではなく、複数の欲求が同時に作用したり、上位の欲求が下位の欲求よりも優先されたりする場合もある。
例えば、芸術家が生活に困窮しながらも創作活動を続ける場合、自己実現欲求が生理的欲求や安全欲求よりも優先されていると言える。
また、宗教的な理由で断食を行う人々の場合、精神的な欲求が生理的欲求よりも優先されている。
これらの例は、人間の欲求や動機づけが、マズローの理論が示すよりも複雑で多様であることを示している。
したがって、マズローの欲求5段階説を適用する際には、個々の状況や文脈を十分に考慮する必要があるのは明白だ。
文化や個人差の影響
マズローの欲求5段階説は、アメリカの文化に基づいて提唱された理論であり、すべての文化に当てはまるわけではない。
文化によって価値観や優先順位が異なるため、欲求の階層構造も変化する可能性がある。
例えば、日本では、集団主義的な文化が根強く、社会的欲求が非常に重要視される傾向がある。
個人の成功よりも集団の調和を重視する文化では、承認欲求や自己実現欲求よりも社会的欲求が優先される。
一方、個人主義的な文化を持つ国では、自己実現欲求が重視される傾向があるのが現実だ。
また、個人差も大きな要因となる。同じ文化圏にいても、個人の性格、経験、価値観によって、欲求の優先順位は大きく異なる可能性がある。
例えば、内向的な人と外向的な人では、社会的欲求の重要性が異なる。
これらの文化的、個人的な差異を考慮することで、マズローの理論をより柔軟に、そして効果的に適用することだ。
マーケティングの文脈では、ターゲット層の文化的背景や個人特性を十分に理解した上で戦略を立てることが重要である。
現代の複雑化した社会における適用
現代社会は、マズローが生きていた時代よりもはるかに複雑化しており、人間の欲求も多様化している。
そのため、マズローの欲求5段階説をそのまま適用することが難しい場合もある。
例えば、情報化やグローバル化の進展により、新たな欲求が生まれている。
デジタルデトックスの需要や、環境保護への意識の高まりなどは、マズローの時代には想定されていなかった欲求だ。
また、SNSの普及により、承認欲求の表れ方が大きく変化している。
さらに、現代社会では、複数の欲求を同時に満たすことが可能だ。
スマートフォンは、コミュニケーション(社会的欲求)、情報収集(安全欲求)、エンターテイメント(自己実現欲求)など、複数の欲求を同時に満たすツールであるのは言うまでもない。
このような現代社会の複雑性を考慮すると、マズローの理論を基礎としつつも、より柔軟で多面的なアプローチが必要となる。
欲求の階層を固定的なものではなく、状況に応じて変化するものとして捉えるなど、より動的な解釈が求められる。
マズローの欲求5段階説は新たなステージに
マズローの欲求5段階説は、その後の研究や社会の変化を受けて、さらなる発展を遂げている。
マズロー自身も、晩年には新たな段階を提唱しており、現代の研究者たちもこの理論を現代社会に適応させるための試みを続けている。
第6階層…自己超越の登場
マズロー自身も、晩年には、自己実現欲求を超えた第6階層の欲求として「自己超越」を提唱した。
自己超越とは、自己実現を超えて、他者や社会に貢献したいという欲求だ。
これは、自己実現欲求が満たされた後に、さらに高いレベルの欲求として現れると考えられている。
自己超越の欲求は、個人の利益を超えて、より大きな目的や意味を追求しようとする。
例えば、環境保護活動や社会貢献活動に身を捧げる人々の行動は、この自己超越の欲求によって説明できる。
ただ、実態は自分達の価値観を押し付けるだけのもので、本質が伴っていないため、本当の意味でこの次元にいる人は世界人口の1%にも満たないとされている。
しかし、この概念は、特に現代社会において重要性を増している。
環境問題やグローバルな課題が顕在化する中で、個人の利益を超えた行動の重要性が認識されつつある。
マーケティングの文脈では、企業の社会的責任(CSR)活動や、社会貢献を重視するブランディング戦略などに、この自己超越の概念を適用することができる。
達していなくても、目指そうとする姿勢は重要だ。ただ、押し付けないように注意しよう。
現在の日本人は第4階層がベース
現代の日本社会においては、多くの人が第4階層の承認欲求を満たすことに強い関心を抱いていると考えられる。
SNSの普及や情報過多の時代において、人々は常に他者からの評価や承認を求めている。
例えば、SNS上での「いいね」の数や、フォロワー数の増加を求める行動は、この承認欲求の表れだと言える。また、学歴や職業、収入などの社会的ステータスを重視する傾向も、承認欲求の現れと解釈することができる。
わかりやすくいえば、結婚相手に「年収」「職業」「容姿」「身長」などを求める傾向が強くなっているのもこの影響だ。
しかし、承認欲求にばかり囚われてしまうと、自己実現や自己超越への意識が薄れてしまう可能性もある。
他者からの評価に過度に依存することで、本来の自分らしさや、より高次の欲求の追求が妨げられる可能性がある。これは非常にもったいない状態だ。
承認欲求を超えて、自己実現や自己超越の段階に進むことができれば、より充実した人生を送ることができる。
これからのマーケティングにあるべき姿
マズローの欲求5段階説を解説してきたが、最後に別の視点を投下しておこうと思う。
マーケティングへの活用についてを前提にしてきているわけだが、これは一重に現状への否定でもある。
現在、マーケティングの主流は言ってしまえば、「情弱ビジネス」が大半だ。
「知らない」や「浅い欲求」に付け込んで、お金を搾取するとビジネスモデルが大量に作られている。内容も薄いものが多く、小銭を稼いでドヤ顔するような人が大半なのだ。
このことについては別の記事でも言及している。詳細はこちら⇒【マーケ初心者】Webマーケティングの闇「大半は胡散臭い人の集まりか?」
だが、マズローの欲求5段階説の本質は、時代に合わせて人間の精神性が向上してきたことにあると私は考えている。
つまり、本当の意味でマーケティングの施策に移すのであれば、低次の欲求で困っている人を精神的に引き上げるマーケティングの施策として落とし込むべきである。
自分本位の悪用ではなく、相手ベースの利用を真に考えて活用してもらいたい。